- Group電装班
- Date2025.10.20
WL?いいえ、FBWです!~「でんそうだあ」開発日記~
こんにちは!電装設計のカーボンです。今回は、今年TBTで新たに導入する操縦システム「でんそうだあ」の開発について書こうと思います。
「でんそうだあ」とは何なのか?「でんそうだあ」とはつまり!操舵(WL)のセンタリング機構を採用した電装(FBW)です。

開発経緯
既知の方もいらっしゃるかと思いますが、TBTでは昨年度(鳥人間歴)、創部以来初めて、WL(ワイヤーリンケージ)を採用した機体を開発しました(先輩方が)。
WLとは、パイロットによる操縦桿の入力を、ワイヤーを使って物理的に尾翼に伝え、尾翼を制御する方式です。それに対し、FBW(長年TBTで採用されていた操縦システム)は、操縦桿の入力を電気信号に変換し、尾翼に取り付けられたサーボモータの動きにマッピングさせ、電気的に尾翼を制御する方式です。
なぜ、昨年度初めてWLを導入したのかというと、(熱でサーボ等がやられるという問題もありますが)FBWでは操縦がしにくいという結論になったからです。当時のFBWでは、パイロットがゲームにもよく使われる「ジョイスティック」を親指で操作して尾翼、そして機体を操縦していました。

↑ジョイスティック
しかしこれでは、必死でペダルを漕いでいて、また極度に緊張しているパイロットに、親指でジョイスティックを微調整するという高度な操縦技術を要求することになってしまいます。実際、S-300(二年前の機体)では、鳥人間コンテスト本番で、パイロットがジョイスティックを0-100(本来であれば何段階かで調整できるのですが)で操作し、尾翼がパタパタと激しく・急激に舵角を変え、機体の挙動が不安定になってしまいました。
というわけで、
「WLなら、ちゃんと手全体で握れる操縦桿で、無限段階で尾翼の角度を調整できるよね」
といったこともあり、WLが採用されたそうです。

↑実際に先輩が作ったWLの操縦桿
今年は、昨年度の結果も鑑みて、設計者で話し合った結果(私が駄々を捏ねた結果(笑))、FBWを採用することになったのですが、今まで通りジョイスティックの操縦桿にしてしまっては、また二年前のような事故が起こる可能性があります。
そこで思いついたのが、WLのセンタリング機構を採用した、手全体で握って操縦できる、FBWです!センタリング機構とは、操縦桿から手を離したときに、自動的に操縦桿が中央に戻る機構です。ジョイスティックにも付いてますよね!これにより、パイロットが操縦桿に力を加えていないとき、水平尾翼の角度を地面に対して水平、垂直尾翼の角度を地面に対して垂直な状態(ニュートラル状態)に維持することが出来ます。
↑ジョイスティックのセンタリング機構
この機能が無いと、パイロットは常に、尾翼の舵角が0度であることを計器を見て確認する必要があり、他のこと(外の様子や機体の状態など)に集中できなくなってしまいます。また、私はパイロットでは無いため、予想でしか言えないですが、そんな状態で全力でペダルを漕ぐのは至難の業だと思います(笑)。
(ところがなんとWindnautsさんなんかは、あえてこのセンタリング機構を付けずに、パイロットが尾翼からワイヤーを通して伝わる舵感を、操縦桿から読み取って、感覚的に操縦しているみたいです。凄すぎます!)
今までは、ジョイスティックに標準でついているセンタリング機構で代替していましたが、パイロットがより操縦しやすい、手全体で握れる操縦桿を作るにあたり、自分でこのセンタリング機構の仕組みを作る必要が出てきました。そこで、WLで長年使われているセンタリング機構の仕組みを利用できないかと考えたのです!
操縦桿の構造
↑Fusion360で作成したイメージ
センタリング機構には、今や鳥人間操舵界隈で知らない人はいない、チームあざみ野さんのバネを使ったセンタリング機構を採用しました。操縦桿から手を離すと、バネの力で、自動的に操縦桿が中央に戻ります。
↑3Dプリンターで作成したTP(テストピース)
そして、WLであれば、この操縦桿がワイヤーで尾翼までつながっているのですが、このFBWの操縦桿では、回転軸にポテンションメータ(可変抵抗)を取り付け、操縦桿の角度を電圧値に変換してマイコンで読み取っています。



マイコンに送られた操縦桿の角度情報は、サーボの角度にプログラム的にマッピングされ、尾翼付近のサーボモータに送られます。そして、4節リンク機構を通じて、尾翼が動くのです!
↑4節リンク機構に関する記事はこちら!
工夫したところ
いくつか工夫したところがあるので、一応書いておきます。
まず、めちゃくちゃ簡単に操縦桿を取り換えられるようにしました!なんと、コネクタを抜いて、下の写真の赤枠で囲まれた部分のピンを抜いて、操縦桿を手前に引っ張るだけです。
こんなに簡単に変えられるようにしたのには、今年私が掲げている、以下の3つの設計思想があります。
- 壊れない
- 壊れても別の方法で機能を維持する
- それでもダメな場合に備えすぐに修理できるようにする
どんなに壊れないように作っても壊れることはあって、どんなにいろんなケースを想定しても対応できないことはあって、もしそんなことが琵琶湖のあのプラットホーム上で起こったら、、、考えるだけで恐ろしい、、、
そこで、たとえプラットホーム上で壊れても5分以内に修理(なんなら全ての電装を別の新品に取り換え)できるように、操縦桿をモジュール化し、壊れてもパパっと取り換えられるようにしています。
操縦桿の電源をこんなところに一緒に格納しているのもそのためです!

↑操縦桿の電源である18650電池が操縦桿に内蔵されている
また、コンパクトにするというのも意識して設計しました。操縦桿の位置が、コックピットで一番横幅をとる位置なので、操縦桿のサイズは、コックピットのサイズに大きく影響を与えます。コックピットが大きいと、フェアリング(カウル)の抗力が増えてしまうため、できるだけ操縦桿を小さくしよう!という試みです。

そして、操縦桿の横についているこれらのボタンは、「トリム」といわれるものです。トリムとは(鳥人間界隈では)、尾翼のデフォルトの傾き具合を表します。先ほど、ニュートラル状態とは、水平尾翼が地面に対して水平、垂直尾翼が地面に対して垂直な状態を表すと書きましたが、実は少し語弊があって、このトリムスイッチを押すことで、尾翼を水平or垂直状態から〇度傾けた位置をニュートラル状態にするといったことができます。
私は空力がよくわからないので、詳しいことは言えませんが、機体を取り巻く風の状態によっては、尾翼が水平・垂直でも、機体がまっすぐ飛ばないことがあり、そんな時に、このトリムスイッチでデフォルトの尾翼の角度を変更することで、操縦での微調整無しに機体をまっすぐ飛ばせるというわけです。
3つボタンが見えるかと思いますが、それぞれ、水平尾翼の「アップ」「ニュートラル」「ダウン」です。「アップ」、「ダウン」を複数回推すことで、デフォルトの舵角を微調整し、また、「ニュートラル」を押すと、尾翼の角度が初期状態(地面に対して水平)に戻ります。

垂直尾翼のトリムは?というと、飛行中に変更することはないだろう(使うとしても垂直尾翼を接合する際、接合誤差でニュートラル位置がずれた時に、微調整するのに使うくらいだろう)と判断し、飛行中には押せない別の場所(上の写真の赤枠)に設置しました。そのため「ニュートラル」ボタンもありません。

そして最後に、この操縦桿の横についているボタンとLEDは、操縦モードを変更するためのものです。まだ具体的なことは決めていませんが、操縦桿と尾翼の挙動の対応付けなど、せっかくFBWで柔軟に変えることができるので、様々なパターンをパイロットに試してほしいなと思っており、そのモード切替ボタンと、切り替えたことを示す表示を想定しています。
まとめ
ここまで、今年新たに開発する新操縦桿「でんそうだあ」について、書いてきましたが、写真を見ていただければわかる通り、まだ3DプリンタでTPを作っただけです。これから、カーボンプレートや桁を利用して、実際の操縦桿の製作に入っていきます。

つまり、今まで書いたことは全て「構想」だということです。うまくいくかも、これが本当に操縦しやすい操縦桿かも分かりません、、、(笑)。うまくいくといいなあ。。。