- Group駆動班
- Date2025.12.22
S-310 あかつき 駆動班 設計・活動報告
2025年大会出場を目指した機体「S-310あかつき」では、プロペラの駆動方式に大幅な改良を加え、デファレンシャルギアを初めて搭載しました。大会出場には至らなかったものの、テストフライトにおいて飛行に成功し、その有効性を確認しました。
目的と構造
従来の駆動方式では、機構上プロペラを回転させるために前部クランクと後部クランクを同期して回転させる必要があり、2人のパイロットのケイデンスを一致させてペダリングする必要がありました。いずれか一方の回転が速すぎたり遅すぎたりすると抵抗が生じるため、両者の動作の同期性が極めて重要でした。差動装置であるデファレンシャルギアの逆入力を利用し、2人のパイロットのトルクを合成することで、クランクの同調を不要とし、より楽なペダリングを実現することを目的としています。

また、本チームの機体は他チームの約2倍の重量があるため、発進時に必要な運動エネルギーが大きく、機体後方からの人力による押し出しによって初速を付与する方式では、十分な離陸速度を得ることが困難です。この課題を解決するため、人カプロペラ機部門への出場当初より、パイロットのペダリングによって駆動する車輪を用いた自走加速方式を採用しています。しかし、従来の駆動系は駆動輪とプロペラが機械的に同期して回転する構造であるため、プラットホーム上ではプロペラを設計回転数まで加速させることが困難です。その結果、プラットホームから駆動輪が離地した瞬間に、両パイロットの駆動力が一度にプロペラへ伝達されてしまいます。
デファレンシャルギアを導入することで、発進時には後部パイロットが駆動輪及びプロペラの回転を、前部パイロットがプロペラの回転をそれぞれ担当することが可能となります。これにより、前部パイロットはプラットホーム上で機体が静止した状態でも、ペダリング動作によってプロペラを回転させることができます。


機構の検討と検証
新機構の実用性を確かめるため、さまざまな試作とテストを重ねました。
まずは3Dプリンターでデファレンシャルギアの模型を製作し、複雑な回転機構やギアの配置を検証しました。実機とは異なるスケールであるものの、手に取って動きを確認することで、デファレンシャルギアの構造理解をより深めることができました。
次にパイロットによるペダリング試験を実施し、デファレンシャルギアの操作感と動作特性を検証しました。試験では、昨年度に琵琶湖を飛行した機体のコックピットフレームと、中古の自動車用デファレンシャルギア(オープンデフ)を組み合わせた専用装置を使用しました。(図4)装置中央に配置されたデファレンシャルギアには、前部パイロット(リカンベント姿勢)と後部パイロット(アップライト姿勢)のクランクから、それぞれチェーンを介して回転が伝達されます。一方のパイロットがペダリングを停止した状態や、両者が同時にペダリングを行う状態など、複数の条件下でテストを行い、デファレンシャルギアが想定どおりに機能することを確認しました。
機体運用について
例年同様に走行試験、回転試験を経てTFへと挑みました。テストフライトでは、新機構の導入に伴う大きなトラブルもなく、デファレンシャルギアを初めて導入した年度として良好な成果を得ることができました。
さらに、本試験では本機構の目的である「同調不要のペダリング機構」の有効性を確認しました。短距離飛行中、機体が浮上後に横風を受けて滑走路外へ逸脱しかけた際、前部パイロットの指示により後部パイロットがケイデンスを上げ推力を増したことで、失速を回避し着陸することができました。この事例は、一方のパイロットによって瞬時に推力を確保できるという、本機構の有効性を実証するものであり、デファレンシャルギア導入の成果を象徴する重要な場面となりました。

総括
TBTでは、更なる記録更新を目指し、新たな駆動システムであるデファレンシャルギアを初めて搭載した機体を、1年をかけて設計・製作・運用しました。鳥人間コンテストヘの出場には至らなかったものの、機体の飛行を達成したことで、二人乗り人力飛行機における新たな可能性を示すことができました。
次年度以降の機体でデファレンシャルギアを採用するかは次期設計者に委ねられますが、『S-310あかつき』で得られた経験と知見は、今後の設計に確実に活かされるでしょう。そしていつの日か、この知恵と技術が結実し、琵琶湖の空を再び舞う瞬間が訪れることを期待しています。
